「孤独」と「悲しみ」は同義ではない

2011年06月30日

だまされてる

彼を見つけるのにそれほど時間はかからなかった。
先刻電話で彼は本屋にいると言ったのだ。それはつまり、新宿のコクーンタワーの地下にある本屋でミステリィの文庫を選んでいるということだ。
彼はとりわけこの新しくて静かで品揃えの豊富な本屋が気に入っていた。
私は畳んだ傘が本に触れないように気をつけながら隣に並び、彼の目線を追いながら彼が何か言うのを待つ。
「はやかったね。」
こちらに顔を向けずに彼が言う。それだけ?それは質問?それともただの感想?
私は答えずに、先ほどから彼がじっと見つめている本棚と彼の顔を交互に見てたずねた。
「アガサクリスティ?珍しいね。そんな古典、すっかり読み終わっちゃったのかと思ってた。」
「いや、僕はニワカ推理小説ファンだからね。特に名探偵が出てくるような小説はあまり読んで無いんだ。」
相変わらず顔は正面を向いたまま、少しだけ口の端をまげて自嘲気味に彼が言う。
「ふーん。で、決まったの?」
「いや、それがね、君、どう思う?」
「何が?」
「この本、『アクロイド殺し』と言うんだけどね、これ、良くないなぁ。」
「何が良くないの?」
「だって、ミステリィってさ、謎を解く「探偵役」と、殺される「被害者」と、「殺人犯」と「トリック」の4つが大切なファクタだろう?」
そこで初めてかれがこっちを向く。私よりもずっと背が高い。
「それでもってこういうシリーズものだと読者は『名探偵ポアロ』の名推理を見たくて読む訳だから、あとお楽しみは3つしかないわけだ。ところがどうだいこの本ときたら『アクロイド殺し』って題名で被害者がバレちゃってる。もう読者は被害者が死ぬのを待ちながら読むわけだよね。不純だなぁ、こういうのって。」
あたりを気にしてか小さな声で彼が唸るように言う。
「よくわからないけど、その「アクロイド」ってのは被害者なわけ?箱根温泉殺人事件みたいに場所じゃないの?」
「でも君、「箱根温泉殺し」とは言わないよね。きっと被害者だと思うよ。」
いかにも不満そうに彼が言う。
じゃぁ違う本にすれば?とは言えず、そんなもんなのかなぁと曖昧に返事をする。
「でもこれにするよ。今のところこれ以外に条件に合うおもしろそうな本がないからね。」
適当な本を手にとりペラペラとやっていた私は顔をあげて彼の方を見る。
「条件?」
「そう。あれ?言ったこと無かったっけ?」
首をかしげて思い出すフリをするが、そんなこと聞いたことが無いのはわかってた。
彼の話してくれたことで忘れたことなんかあるわけがない。舐めてもらっちゃ困る。
「僕は章が奇数の本しか読まないんだ。この本はちゃんと目次があって、しかも小節が27もあってしかも奇数だ。こんな本はなかなか無いよ。」
「え?どうして奇数じゃないとだめなの?」
「僕はね、推理小説の偶数章を飛ばして読むんだ。」
彼がレジに向かっておもむろに歩き始めたので慌てて着いて行く。
「え?ちょっと何言ってるのかわかんないんだけど、どういうこと?」
「そのままだよ。だいたい一章で大切な人間が現れる。そして最後の章で謎解きが行われる。まぁ最後はエピローグになってることも多いけどね。その後、みたいな。」
びっくりした。そんな話は聞いたことも無い。
「冗談でしょ?じゃぁさ、偶数章で人が死んだり、重要なトリックのネタが隠されてたりしたらどうするの?」
上半身を折り曲げて彼の前にこじいれるようにして見上げながら訪ねる。
彼は笑っていた。
「想像したり推理するんだよ。あぁ、この前の章で何かあったんだなって。だから登場人物がこんなに慌てているんだなって。すぐにそのことに触れる文が現れるしね。でもこの『アクロイド殺し』みたいに27も章があると助かるなぁ。酷い時には3つしかないなんてこともあるからねぇ。」
何が助かるんだ?レジの列に並ぶ彼の後ろ姿はさも愉快そうだ。どうも騙されている気がする。
「そんな人初めて見た。それ、おもしろいの?」
「うーん。そうだね、リアルではあるかな。」
「リアル?」
「そう。だって、僕らが何か起こっている事象を知る時って、きっとこういう風に断片的だと思うんだ。こんな風に小説みたいに全ての事柄を筋道たてて時系列で知ることなんてできないと思うんだ。」
「それ、何かの訓練?」
眉をひそめて問う私に彼は笑顔だけをよこす。やっぱりだまされてる?
レジの店員が手をあげて彼を呼ぶ。彼が支払いを済ませている間、私はこの後の食事のプランについて考えることにした。
雨が止めば伊勢丹の方まで足をのばしてもいい。あのミネストローネスープ。きっと彼は気に入るはずだ。でも、久しぶりに焼き肉なんてのもいい。個室でおいしいお店があったはずだ。そうだ肉が食べたい。そう思うと急におなかがすいてきた。
彼が振り返ったら焼き肉にしよう。振り返れ振り返れ。念ずる。振り返れ振り返れ!
彼が振り返る。やった!私はここ一番、特上の笑みで返す。
「ねぇ、700円貸してくれない?」

それほぼ全額!絶対だまされてる!



Think Twice/Piano Break
posted by ミグリン at 21:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 降臨 はてなブックマーク - だまされてる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月29日

TOKYO

Tokyo.jpg
posted by ミグリン at 01:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 はてなブックマーク - TOKYO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブクログ

会社では読書部なんぞに入部してますけど、これこれしかじかの本が面白かったと言うと、いちいち「だれの本?」」とか聞かれてまどろっこしかったのでブクログに登録することにしました。
ここに僕が読んだ本や看たDVDをレビューとともにあげていきます。
(映画は気が向いたやつしかのせてません、本は読んだ本を全てアップしようと思います。)
無料でで登録できるのでみなさんも是非。
因にこのブクログ、本や映画だけでなく、音楽やweb上の動画、その他いろんなものが登録できるので使い方は無限大だと思います。
http://booklog.jp/users/migrin

posted by ミグリン at 00:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | メディア はてなブックマーク - ブクログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

無題

ともに生き、ともに歩み、ともに死ぬ
そんなことを、二人で思い描いてた時もありました
本当に愛していたんです

僕は裏切りを繰り返して生きてきました
どうしようもない最低な男でした
最後まで、君のように己を信ずる事も出来ず
最後まで、君のように愛を信じる事も出来ませんでした

今君を再び失って、これからどのように生きて行けばいいのでしょうか
心にぽっかりと穴が空いた様とはこういうことでしょうか
何をやっても夢中になれず、何をやっても楽しくもなく、何をやっても君を想うのです

時が戻るなら僕はいったいどれくらい戻ればいいのでしょうか
どこで間違えたのかももうわからないくらい遠い遠い過去から産まれた悔恨が心を締め付けるのです
それももうこれで最後でしょうか

いいえ
きっとこれから僕はずっと後悔を抱いて生きて行くのでしょう
これからずっと、卑屈な笑みを浮かべて、幸せだと笑うのでしょう
心の隅にずっと君を抱いて生きて行くのでしょう
地獄があるとしたら、君がいるところでしょうか、僕が歩む道でしょうか

さよなら愛した人
さよなら過ごした時間
さよなら僕
さよなら

どうかはやく、僕を殺しに来てください
ずっと、ずっと待っています

posted by ミグリン at 00:22 | Comment(2) | TrackBack(0) | 静かなもの はてなブックマーク - 無題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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